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葬儀の手伝いで最も重要な受付会計係
数ある葬儀の手伝いの中でも、最も重要で、かつ大きな責任を伴う役割が「受付・会計係」です。受付は、弔問に訪れた方々を最初にお迎えする、いわば葬儀の「顔」となる場所。そして会計係は、皆様から寄せられた香典という大切なお心を預かる、信頼性が第一に求められる役割です。この二つの係を、誰に、どのように依頼し、運営していくかは、葬儀全体の成否を左右すると言っても過言ではありません。まず、この役割をお願いする相手は、慎重に選ばなければなりません。金銭を扱うため、何よりも「信頼できる」人物であることが絶対条件です。一般的には、喪主の兄弟姉妹や、甥姪といった近しい親族に依頼するのが最も安心です。もし、適当な親族がいない場合は、非常に信頼のおける、几帳面な友人などにお願いすることになります。受付係の具体的な仕事内容は、弔問客への挨拶、芳名帳への記帳の依頼、香典の受け取り、そして返礼品(会葬御礼品)の手渡しです。弔問客が到着したら、「本日はお忙しい中、お越しいただきありがとうございます」と丁寧に挨拶し、記帳を促します。香典は必ず両手で受け取り、「お預かりいたします」と一礼します。その際、いただいた香典を管理するための通し番号をつけ、芳名帳の記帳欄にも同じ番号を控えておくと、後の整理が非常にスムーズになります。会計係は、受け取った香典を管理する役割です。受付係から香典を受け取ったら、人目につかない場所で開封し、中に入っている金額を確認して、会計帳簿に記録していきます。この時、香典袋に書かれた氏名、住所、そして金額を正確に記載することが、後の香典返しの手配に不可欠となります。受付と会計は、最低でも二人一組で担当し、常に相互確認をしながら作業を進めることが、ミスやトラブルを防ぐために重要です。手伝う側としても、この大役を任された際には、遺族の代理であるという自覚を持ち、丁寧な言葉遣いと、慎み深い態度を終始心がける必要があります。
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受付係が教える記帳で困るこんな書き方
長年、知人の葬儀で何度か受付係の手伝いをさせていただいた経験から、ご遺族が後で本当に困ってしまう、記帳のNGな書き方というものが、いくつかあることに気づきました。心を込めて弔問に来てくださっているのは重々承知の上で、ほんの少しだけ書き方に配慮していただくだけで、後の作業が格段にスムーズになる、ということを、ぜひ知っていただきたいと思います。まず、最も困るのが、やはり「住所の不備」です。特に多いのが、マンションやアパートの「部屋番号」の書き忘れです。氏名と建物名まで分かっていても、部屋番号がなければ、香典返しをお届けすることができません。また、「〇〇市〇〇町まで」で終わってしまい、番地が書かれていないケースも意外と多くあります。ご本人は、自分の家のことなので、つい省略してしまうのかもしれませんが、私たちにとっては、その最後の情報が命綱なのです。次に、達筆すぎて、あるいは癖が強すぎて「文字が判読できない」ケースです。特に、旧字体の漢字や、珍しいお名前の場合、ご遺族が読み方を間違えて、失礼にあたってしまわないかと、非常に気を遣います。心を込めて書いてくださっているのは伝わるのですが、できれば、誰もが読める「楷書」で、はっきりと書いていただけると、本当に助かります。そして、意外と多いのが「同姓同名」の問題です。会社関係などで、同じ部署に同姓同名の方がいらっしゃる場合、名前だけでは、どちらの方からいただいた香典なのか、全く区別がつきません。このような場合は、名前の横に「(〇〇部)」や「(〇〇支店)」といった、所属部署を書き添えていただけると、一目瞭然で、大変ありがたいです。また、芳名カードの場合に、裏面の住所欄に気づかず、表面に名前だけを書いて帰られてしまう方も、時折いらっしゃいます。カードの裏表を、一度ご確認いただけると幸いです。これらのことは、決して参列者の方々を責めているわけではありません。悲しみの中で、慌てて記帳されているのですから、仕方のないことだとは思います。しかし、もしこの記事を読んだ方が、次に記帳される際に、ほんの少しだけ、「この後、遺族が整理するんだよな」と、想像力を働かせてくだされば、それだけで、多くのご遺族が、その見えない心遣いに救われるはずなのです。
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私が葬儀の手伝いで感じた友との深い絆
大学時代からの親友、健太の母親が亡くなった、という知らせが届いたのは、ある日の夕方でした。電話口の向こうで、気丈に振る舞おうとしながらも、時折言葉に詰まる彼の声を聞き、私はいてもたってもいられなくなりました。「何か、俺にできることはないか?」。そう尋ねる私に、彼は少し躊躇した後、「もし良かったら、明日、受付を手伝ってもらえないか」と言いました。私は、二つ返事で引き受けました。翌日、斎場に着くと、そこには私の知らない、喪主の息子としての健太がいました。親戚に頭を下げ、葬儀社の担当者と打ち合わせをし、気丈に振る舞う彼の姿は、いつも見ていたお調子者の友人とは、まるで別人でした。私は、もう一人の友人と共に、受付係を任されました。次々と訪れる弔問客に頭を下げ、香典を預かり、芳名帳への記帳をお願いする。慣れない作業に戸惑いながらも、私は、悲しみにくれる友人のために、今、自分にできることを精一杯やろう、と心に決めました。式の合間、健太が私たちのところへやってきて、「本当にありがとうな。二人いてくれて、本当に助かるよ」と、涙で潤んだ目で、そう言ってくれました。その一言で、私の心は満たされました。手伝いを通じて、私は健太の親戚の方々とも言葉を交わし、彼の知らなかった子供の頃の話や、お母様の人柄について、たくさん聞くことができました。それは、健太という人間を、より深く理解する時間でもありました。葬儀という、非日常の、極めてプライベートな空間で、彼の家族の一員であるかのように、共に時間を過ごしたこと。それは、ただ飲み会で騒いでいた頃の友情とは、全く違う次元の、深い繋がりを、私たちにもたらしてくれました。葬儀の手伝いは、決して楽なものではありません。しかし、それは、単なる物理的な労働ではないのです。友人の最も深い悲しみに、ただ寄り添い、その痛みを、ほんの少しだけ分かち合うための、かけがえのない時間なのだと、私は知りました。あの日以来、私と健太の絆は、以前よりも、もっと強く、もっと確かなものになったと、確信しています。
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私がネイルを隠して葬儀に参列した日
それは、忘れもしない、金曜日の夜のことでした。親友の結婚式に出席するために、私はその日、有給休暇を取り、ネイルサロンで、人生で一番と言っていいほど、華やかなネイルを施してもらいました。淡いピンクのベースに、薬指にはキラキラと輝くストーン。浮かれた気分で家に帰った私を待っていたのは、一本の電話でした。祖母が、危篤だというのです。私は、そのネイルのことも忘れ、夢中で夜行バスに飛び乗りました。しかし、私の願いも虚しく、祖母は、私が病院に着く少し前に、静かに息を引き取りました。悲しみにくれる間もなく、通夜は翌日の日曜に行われることになりました。その時、私は自分の指先を見て、愕然としました。そこには、お悔やみの場とは、あまりにも不釣り合いな、きらびやかなピンク色の爪が、まるで嘲笑うかのように輝いていたのです。田舎の小さな町です。日曜日に開いているネイルサロンなど、あるはずもありません。私は、パニックになりました。祖母の死を悲しむ気持ちと、この派手なネイルで親戚たちの前に出なければならないという羞恥心とで、頭がぐちゃぐちゃになりました。母に相談すると、母はため息をつきながらも、薬局でベージュのマニキュアと、黒いレースの手袋を買ってきてくれました。私は、ホテルの部屋で、震える手で、ストーンの上から何度もベージュのマニキュアを塗り重ねました。しかし、ストーンの凹凸は隠しきれず、まるで泥団子をつけたように、不格好なだけでした。結局、私は、斎場までと、出棺の時は母が買ってきてくれた手袋をし、お焼香の時は、できるだけ指を伏せて、この不格-好な爪を隠すようにして、なんとか二日間を乗り切りました。幸い、親戚の誰からも、ネイルのことを咎められることはありませんでした。皆、それどころではなかったのでしょう。しかし、私の心の中には、大きな後悔の念が、澱のように沈んでいました。大好きだったおばあちゃんの、最後のお別れの場で、私は、自分の爪のことばかりを気にしていた。その事実が、たまらなく情けなく、申し訳なかったのです。この経験は、私にとって、人生の大きな教訓となりました。おしゃれは、平和な日常の上でしか成り立たない、儚いものなのだと。そして、いつ訪れるか分からない「もしも」の時に備えることの大切さを、身をもって知りました。
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夫婦や代理で記帳する場合の正しい書き方
葬儀の受付での記帳は、個人で参列する場合は比較的シンプルですが、夫婦連名で香典を出す場合や、誰かの代理として参列した場合など、少し特殊なケースでは、「どのように書けば良いのか」と戸惑うことがあります。それぞれの状況に応じた正しい書き方をマスターし、スマートに対応しましょう。まず、夫婦で参列し、香典も一つの袋にまとめる場合です。この場合、記帳は一箇所にまとめて行います。代表者である夫の氏名をフルネームで書き、その左隣に、少し寄り添うように、妻の名前のみを書きます。この際、妻の姓は省略するのが一般的です。住所は、代表者である夫の名前の欄に、一箇所だけ書けば問題ありません。例えば、「葬儀 太郎」と書いた左に「花子」と記します。これにより、夫婦二人で弔問に訪れ、一つの香典を出したという事実が、ご遺族に明確に伝わります。次に、会社の代表として参列する場合です。この場合は、個人としての弔問ではないため、会社名と役職を明記する必要があります。記帳欄の右側にまず会社名を書き、その左隣に、役職と氏名をフルネームで書きます。会社の住所と電話番号も、忘れずに記入しましょう。もし、故人とは個人的な付き合いもあり、個人の資格で参列するが、関係性を分かりやすくするために会社名も書き添えたい、という場合は、自分の名前の右肩に、少し小さな字で会社名を書き添える、といった方法もあります。そして、最も間違いやすいのが「代理」で参列した場合です。例えば、夫の代理で妻が参列した場合、記帳するのは、香典の差出人である「夫」の名前です。夫の氏名と住所を通常通りに書き、その名前の左下に、少し小さな字で「(内)」と書き添えます。「内」は、妻を意味する伝統的な表現です。そして、実際に訪れた代理人(妻)の名前は、記入する必要はありませんが、もし受付で尋ねられた場合は、「妻の〇〇です」と名乗ります。上司の代理で部下が参列した場合も同様に、上司の氏名と住所を書き、その名前の左下に「(代理)」または「(代)」と記します。これらの作法は、誰が、どのような立場で弔意を示しているのかを、ご遺族が後で正確に把握するための、非常に大切な配慮なのです。