葬儀の運営は、そのほとんどを、プロフェッショナルである「葬儀社」のスタッフが担ってくれます。儀式の進行、会場の設営、司会、各種行政手続きの代行など、その業務は多岐にわたります。では、なぜ、それほどまでに万能な葬儀社がいるにもかかわらず、多くの葬儀では、今なお、ご遺族が親族や友人に「手伝い」を依頼するのでしょうか。それは、葬儀社が担う役割と、手伝いの人々が担う役割には、明確な違いと、それぞれにしか果たせない、大切な意味があるからです。葬儀社のスタッフが担うのは、主に、専門的な知識と経験が必要とされる「儀式運営のプロ」としての役割です。彼らは、宗教的な作法を熟知し、タイムスケジュールを管理し、葬儀という非日常的な儀式を、滞りなく、そして厳粛に進行させます。その動きは、いわば葬儀という舞台における「舞台監督」や「進行係」であり、その役割は公的で、全ての参列者に対して公平です。一方、ご遺族から依頼された手伝いの人々が担うのは、ご遺族の代理として、弔問客と直接心を通わせる「プライベートなホスト」としての役割です。例えば、受付で香典を受け取る際、葬儀社のスタッフが「お預かりいたします」と言うのと、故人の甥が「叔父のために、ありがとうございます」と言うのとでは、弔問客が受け取る温かみは、全く異なります。手伝いの人々は、故人やご遺族との個人的な繋がりがあるからこそ、マニュアルではない、血の通った対応ができるのです。彼らは、ご遺族と弔問客との間の「潤滑油」となり、厳粛な中にも、人間的な温かみのある雰囲気を作り出す、非常に重要な役割を果たします。もちろん、近年では、受付や接待といった役割も、追加料金を支払うことで、すべて葬儀社に代行してもらうことも可能です。しかし、そこには、どうしてもビジネスライクな空気が流れてしまいがちです。プロフェッショナルによる円滑な運営と、身近な人々による温かい手伝い。この二つの歯車が、うまく噛み合うことで初めて、故人への敬意と、参列者への感謝が、最大限に表現された、心に残る良い葬儀が実現するのです。